珈琲のある情景

第9回 カナダからのお客様
当然のことながら、当店にはいろいろなお客様がお見えになります。最近でこそ若い方がたも増えてきましたが、どちらかと言えば適度な(?)ご年配のかたが多い店です。また、ご来店の約9割が女性客で、喫茶もコーヒー豆の購入も同じ傾向にあります。 

その方が初めて来店されたのはちょうど1年前になります。一見して外国人と判る背の高い若いカップルでした。美男美女と思いました。それ以前にも外国の方はお見えになっており、日本語が堪能であったり、ある程度理解出来る方々でしたので、いつもどおりに「いらっしゃいませ!」とお迎えしました。テーブル席にご案内したものの、不安そうで落ちつかない様子です。「May I help you?」と挨拶をした途端、一変して表情がパァッと明るくなりました。それではと、お二人にたどたどしい英語でお尋ねしたり、メニューの概要を説明しました。お二人はカナダ人の若い夫婦で、英会話教室の講師として2週間前に来日されたとのこと。日本語の会話も文字もお分かりにならない状況でした。「よくこの店に来られたなぁ」と思いました。日本人でさえこの店が何屋か分かりにくく、いぶかしげに通りすぎる人が多いと言うのに・・・。今でも「この店は最初に入るのに勇気がいる」と多くの人に言われます。入り口の全面に長いのれんが掛かっているため内部の様子が全くといってよいほど分かりづらいのです。 

以来、毎週お二人が休日に来られるようになり、少しずつ親交を探めていくことができました。お正月にきな紛と焼き海苔のお餅をお出ししたときは喜んでいただきました。お二人からはカナダの家族からといってスモークサーモンにクラッカーを添えて頂きました。ある時、私の近所の娘さんから新婚旅行のお土産といってカナダのメープルシロップクッキーを頂いたので、お二人にもおすそ分けしました。そのパッケージには、写真でカナダの美しい湖と瀟洒なペンションがデザインされていました。しばらく眺めていましたが、彼女の方が涙ぐんできたのです。私は、過去に女性を泣かしたことはないとは言いませんが、外国の女性が目の前で涙ぐむのは初めての体験です。なにか失礼でもあったのか?とお聞きしてみると「ホームシック」だとおっしゃいました。写真にあるその場所は何度か行ったことがあり、その懐かしさに加え、日本に来て言葉や生活習慣の違いから多少とも苦労されていることをお聞きしていたので、涙腺がゆるんでしまったようです。

 

やがて相模原から藤沢に転居され、以来お見えになっていませんが、ふと思い出す日があります。そんな日お二人から頂いたCDでカナダのピアニスト/グレングールドが弾くバッハを静かに聞いたりしています。