珈琲のある情景

第8回 モカによせる郷愁
 エチオピアの山中に自生していたコーヒーの樹が人類こ発見されたのが8世紀のころ。10世紀になって、アラビア半島に伝播し、イエメンで本格栽培が始まったと言います。モカと言う品種はこのイエメンの港町の名に由来します。当店でもエチオピアのハラー、イエメンのモカ・マタリはモカ系のコーヒー豆としてコンスタントに売れています。またジャワ(インドネシア)、ブラジル、ジャマイカなど全世界に広まってゆくのは16世紀の大航海時代になってからのことだそうです。
 ところで、このモカと言うコーヒー豆はマンデリン(インドネシア・スマトラ島)と同様にに欠点豆が極めて多く、自家焙煎コーヒー屋泣かせの豆なのです。欠点豆としては割れ豆、虫食い豆、かび豆、発育不良豆のほか小石や小枝さらにはトウモロコシ等の混入物が含まれます。当店では全ての豆についてハンドピックを行い欠点豆を除去していますが、とりわけモカに関しては前述の欠点豆が多く、悪童息子のように思っています。とはいえ、モカには他の豆にない独特の味と香りがあり、ファンも多いのも事実です。そう言えば私が初めて喫茶店と言うものに入って注文したのがモカでした。まだ高校生のころです。そのころ(昭35年)我が家の5球スーパーラジオから「喫茶店の片隅で」と言う歌が流れていました。のど自慢などでも好んで歌われていました。その一番目の歌詞はいまでもちゃんと歌えます。 当店のお各様はこの歌を知り懐かしく思う方々も多いでしょう。多感な高校生だった少年は喫茶店におとなの入り口を期待(?)し、モカの香りを密かに想像しました。コーヒーが運ばれてくるまでのあいだ初めての煙草にも火をつけたのですが、目の前がくらくらして椅子にもたれて耐えたのを覚えています。そして、いつかは想いをよせるひとと喫茶店に行きたいと思ったりもしました。
 「モカの香り」の語感の、単純でハイカラな響きは、好き嫌いは別にして、ブルーマウンテンの香りやキリマンジャロの香りと言うよりは喫茶店のイメージにあっているように私は思うのです。