珈琲のある情景

第16回 ネル式ドリップは最高?
 缶コーヒーのCMで「粗挽きネルドリップのうまさ」というのを聞いたことがあるかと思います。ネルとはフランネルまたはリンネルの略で片面に起毛のある柔らかな布。コーヒーの濾し袋としてはじめて用いられたのは18世紀のはじめ、フランスだそうです。
 私も小さいころネルの肌着を着た記憶があります。その温かで柔らかな感触は子供心にも気持ちの良い印象として残っています。

 このネルの濾し袋を用いたネル式ドリップ法はわが国でも戦前・戦後コーヒーの抽出法として多くの喫茶店等で主流をなしていた時期があります。今でもネルにこだわりつづけている喫茶店やコーヒー通も結構いますが、その数は少なくなっています。
 その原因はコーヒーの味にあるのではなく、ネルの管理のわずらわしさにあると思います。ネルのフィルターは使用前に糊を落とすために湯で煮沸またはもみ洗いすること、使用後は良く洗浄し、水中冷蔵庫保管をすること等が求められます。もし、コーヒーの脂肪分等が洗いきれずに残っていると、それが酸敗してせっかくのコーヒー液に悪影響を及ぼすからです。

 しかし、充分に管理され種々の条件が整った最良の状態でいれたネルドリップによるコーヒーは捨てがたいものがあります。コーヒー豆が持つ本来の味と香りをまろやかに引き出せる方法です。
 問題は種々の条件を日常生活の中で整えることの困難さです。裏返せば、コーヒーをいれる人の知識・くせ・湯温・挽き方等々の個人差・バラツキが出やすいのです。他の抽出法がややもすると「画一的」なのに対して、ネルドリップは「個性的」で「マニアック」ともいえます。コーヒーをいれることを職業にするのでなければ、あるいは手間ひまをかけるのをいとわないというのでなければ、むしろペーパードリップの方が良いと思います。

 私は、コーヒー豆を売る立場と喫茶でコーヒーを提供する両方の立場から、お客様には「ペーパードリップ」による抽出法をお勧めし、私自身も採用しています。なぜならば、お客様がご家庭でいれたコーヒーと、私が喫茶で提供するコーヒーの味を同じものにしたいからです。良質の生豆・適正な焙煎・ハンドピックによる欠点豆の除去がなされ、且つ焙煎後2週間以内の新鮮なコーヒーを用いれば、どなたでも美味しいコーヒーがペーパードリップでいれられます。湯の温度(80〜85℃)、注ぐ手順等は既にこのHPで紹介しました。わからない方は是非たずねてきてください。

 一方、ネルドリップとペーパードリップの両方の良さを併せ持ったコーヒー器具もあります。次回はこの器具についてお話します。次回まで待てない方は、是非みにきてください。

第1回 プロローグ
第2回 珈琲豆の鮮度について - その1
第3回 珈琲豆の鮮度について - その2
第4回 おいしいコーヒーのいれかた - その1
第5回 おいしいコーヒーのいれかた - その2
第6回 おいしいコーヒーのいれかた - その3
第7回 おいしいアイスコーヒーの作り方
第8回 モカによせる郷愁
第9回 カナダからのお客様
第10回 コーヒー原産地 エチオピア
第11回 コーヒー豆は木の実の種
第12回 コーヒー豆の焙煎 その1
第13回 コーヒー豆の焙煎 その2
第14回 ブレンドについて
第15回 メリタ式とカリタ式